インクルーシブデザインは、これまでのデザインプロセスで軽視されがちだった人々を包括的に含めるデザイン手法です。
オフィス家具やインテリアに、このインクルーシブデザインを取り入れる動きも高まっていて、ダイバーシティの実現にも深く関わっています。
今回は、インクルーシブデザインとダイバーシティの関係、ユニバーサルデザインとの違い、実際にオフィスに取り入れる際に留意したいポイントについてご紹介します。
INDEX
1.インクルーシブデザインとは
2.ダイバーシティとインクルーシブデザイン
3.ユニバーサルデザインとの違い
4.インクルーシブデザインのオフィス家具
5.インクルーシブデザインを取り入れる時の考え方
6.まとめ
1.インクルーシブデザインとは
インクルーシブデザインのインクルーシブ(Inclusive)は、「包括する、すべて包み込む、含める」という意味です。
すべてとは、性別、性的指向、人種、障がいの有無、年齢など、あらゆる要素を含みます。
インクルーシブの対義語は、エクスクルーシブ(Exclusive)で、「排除する、排他的な」という意味を持っています。
すなわち、インクルーシブは誰か特定の人を排除したり、ある要素を持つ人を除外したりするのではなく、同じ人間として尊重し合い、認め合うという意味をもちます。
そして、その実現のためのデザインをインクルーシブデザインと言います。
インクルーシブデザインを提唱したのは、イギリスの国立大学ロイヤル・カレッジ・オブ・アートに所属する教授ですが、日本では一般社団法人インクルーシブデザイン協会が、デザインの定義を次のように定めています。
「障がい当事者をはじめとする少数派(マイノリティ)など、従来のデザインプロセスから除外されていた方々とともに新たな価値を創造するデザイン手法」
これまでの社会にあった商品、サービス、施設は効率よく販売、利用するためにマイノリティが顧客対象や利用対象から除外されていました。
ここで言う「社会におけるマイノリティ」とは、例えば障がいがある人、高齢者、日本語を母語としない人などを意味します。
これまで除外されてきたこれらの人とともに、より多くの人にとって使いやすい商品やサービス、施設をデザインしていこうというのが、インクルーシブデザインの基本的な考え方です。
2.ダイバーシティとインクルーシブデザイン
インクルーシブデザインは、ダイバーシティ(Diversity)の実現とも深く関わっています。
「多様性」という意味を持つダイバーシティは、異なる年齢、人種、性別、能力、価値観の人々が、それぞれの違いを互いに受け入れて会社や組織で共存していくことを意味しています。
多様性という意味のダイバーシティと、包括という意味のインクルーシブはよく似ています。
実際、ダイバーシティ&インクルージョンをD&Iというワードで経営目標に掲げている企業も増えてきました。
両者を整理するには、ダイバーシティの概念が浸透している状態で初めてインクルーシブな状態を目指せるという構造を思い描くと分かりやすくなります。
つまり、多様性を認め合う土壌があって初めて多様な人々が個々の力を発揮できるというわけです。
3.ユニバーサルデザインとの違い
ダイバーシティとインクルーシブ(インクルージョン)は切っても切り離せない関係ですが、インクルーシブデザインとユニバーサルデザインはそれぞれ意味することが異なります。
インクルーシブデザインは、これまで排除されてきたマイノリティに焦点を当てて、どのようにすれば排除することなく多くの人が該当のものを享受できるかを考えるデザイン手法です。
一方のユニバーサルデザインは、障がいの有無に関わらず使いやすいデザインを追求する手法です。
言い換えると、インクルーシブデザインは、「除外されてきた人を内包するため」のデザインを追求しますが、ユニバーサルデザインは「より汎用性の高いデザインを目指す」という違いがあります。
なお万人にとって使いやすいデザインを追求するという点は、インクルーシブデザインもユニバーサルデザインも共通しています。
4.インクルーシブデザインのオフィス家具
インクルーシブデザインのオフィス家具には、次のようなものがあります。
なお、ここに挙げた例だけでなく、インクルーシブデザインを自社のオフィスにどのように落とし込むかを検討し、それぞれの環境に合ったインテリアを追求するのもおすすめです。
・天板の高さを調節できるデスク
天板の高さを調節できるデスクは、車椅子でも使いやすく、体格の小さな人、大きな人皆が快適に使えるオフィス家具です。
立ったままちょっとしたミーティングを行ったり、快適な姿勢でオンラインミーティングを行ったりと、働く人全員が仕事をしやすい環境を整えられる家具です。
・モジュール式ソファ
長椅子タイプや一人用タイプのパーツを好きなように組み替えられるモジュールソファは、パーソナルスペースを取りたい時、大人数で会合を開く時、肘掛けの要・不要などシチュエーションに合わせて最適な組み合わせを作ることができます。
利用する年齢層、障がいの有無などに合わせて、過ごしやすい空間を作ることで、より快適に会議や打ち合わせができるでしょう。
・丸みのあるデザインの家具を導入する
従来のオフィス家具は、シャープなデザインや無難なスタイルが求められてきました。
また、長らくオフィスが男性社会だったこともあり、どちらかというと男性的な家具で構成されるケースが多くあります。
しかし、多様性を認め合い、さまざまな立場の人が包括的に仕事をするためには、従来とは異なるデザインやスタイルのインテリアを検討する必要があります。
例えば、角ばったデザインから丸みを帯びたデザインにオフィス家具を変更するだけで、従来のイメージを一新することができるでしょう。
5.インクルーシブデザインを取り入れる時の考え方
インクルーシブデザインを取り入れる時は、次の3つを基本の姿勢と心がけるのが大切です。
・除外対象を把握する
インクルーシブデザインでは、これまで除外されてきたマイノリティを意識することが重要です。
極端な例として、女性社員が増えてきたのに同じフロアに女子トイレがない、更衣室がないというシチュエーションを思い浮かべてみてください。
この場合、除外されてきたのは女性です。
そのため、女性を含めて快適と感じられるオフィスを整えることが、インクルーシブデザインの第一歩となります。
・利用方法を限定しない
利用方法を限定せずに、Aという用途でもBという用途でも使える、Cのような人もDのような人も使いやすいデザインを追求するのが、インクルーシブデザインの手法です。
こちらも極端な例を挙げるとすれば、絶対に休憩室としてしか使用できないレイアウトよりも可変性をもたせたモジュール式ソファなどを置いて、仮眠室や会議室、懇親会の会場といったさまざまな用途に使える方が、インクルーシブデザインであると言えます。
・利用者と共にデザインする
インクルーシブデザインは、ユーザー目線が重要です。
オフィスのユーザーは社員なので、社員の声を聞く、さまざまな部署にヒアリングをするなど、使う人の目線や立場を取り入れてレイアウトを決めていくのが大切です。
6.まとめ
インクルーシブデザインは、オフィスを快適な空間にするために有効な考え方です。
仕事がしやすい環境を整えることで、離職率を下げる、優秀な人材を確保する、といった効果も見込むことができます。
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